乗馬クラブでお仕事しているお馬さんは、背中に乗っける人間よりも精神的にも大人で、乗馬レベルも乗り手より上の事が多いです。私もいろんなお馬さんに乗ってきましたが、その中で唯一「一緒に成長してきた馬」がいます。
それが、ラック。
彼に出会ったのは9年ほど前?6歳だったのかなぁ?大柄でスタイルが良く、顔もなかなかハンサム。ただ、年の割には妙〜に達観している感じ。それにあまり怒ったりしません。競走馬になったものの芝では成績が振るわず障害に転向。競馬界を引退後、第二の生活をある乗馬クラブでスタートさせるも『動きが悪い』と故郷へ帰され、次のご主人を待っていたとか...。ま、次のご主人というのが私の先生なわけです。そんな経験があるからでしょうか?
「その手にはのらないよ。どうせ、一生懸命やったって無駄だからね...。」
と、まぁこんな性格の持ち主。良く言えば無駄な事はしない合理的な性格ですが、悪く言えば無気力で悲観的な性格です。実際、一生懸命やったのに命を落としていった多くの仲間も見てきているんでしょう...。回りをよく見ています。しかし、先生はラックの持っている能力を最初から評価していました。性格や頭の良さはもちろんですが、準備運動すら必要ないほど、しなやかで柔らかい体の動き。長い足を生かした大きくて綺麗なステップ。
「こいつは良い馬だよ。いいパートナーになるよ!」
初めて乗った時はその意味が全く分からない程になめられ、その後もレッスンを中断する事がしばしばありました。動きもキャロ、ダイヤ、ありさに比べてとにかく重い...。同じ馬場でレッスンしていたありさが、私とラックに怒りの突進をしてきた事すらあります。仕事なめてんじゃないわよーってね。
「間違った事してる時は、真剣に叱んなきゃダメ!」
ラックは、乗り手が真剣に叱っているのかそうでないのかを分かっています。乗り手が何をしてほしいのか...それが伝わらなかったら、「今日はサボれる!」と主導権を握られます。私はラックに乗る事で、真剣に叱るという事を勉強し、馬術の動きを少しずつではありましたが、お互いに練習していく事ができました。
こんな性格のおかげで、今では初心者から上級者までこなす素晴らしい馬になりました。私なんかよりずーっと馬術レベルが上になってしまったので、今では誘導する事すら難しくなってしまいましたが、乗馬クラブへ行った時は、必ず側で見物しています。
「あんたさぁ、しあわせだよね〜」
「あ〜悪くないかもね〜...もっと仕事少なければね〜」