夏がやってきます その2
8月にクラブへ行った時、ダイヤの姿を見た私は、これが彼に会える最後となると分かりました。幸いな事に、この日からしばらく小康状態が続きました。体調が良い時、ダイヤは馬房の窓から顔をのぞかせていました。
厩はお昼を過ぎると日陰になります。ダイヤのひょっこり顔を出している窓を真ん中とすると、窓の外が私達いるの生の世界、反対が死の世界。そして、ダイヤは、ちょうどその真ん中にいる…という風に私には見えました。そして、飽きもせずにレッスン風景や休み時間のみんなやり取りをじっと眺めているダイヤの顔は、とても穏やかで優しくて…こんなに美しい馬がいるのか…と思うほど綺麗でした。そう遠くはない自分の最期を静かに待っているように見えました。
私が帰る日、ダイヤと仲良しだったお友達がスイカを持ってやって来ました。先生の配慮で、私達はダイヤの姿を見ることが出来ました。馬房からゆっくりと歩き出したダイヤは、足元がガクガク震え、今にもその場に倒れてしまいそうでした。しかし、1歩ずつ前へと進んでいきました。洗い場で汗びっしょりの体をきれいに拭いてもらって、すぐ側の丸馬場へ放されたダイヤは、気持ちよさそうに見えました。そして、お友達が彼だけに持ってきた特別のご馳走を美味しそうに全て食べました。
いよいよ帰らなければならない時間がやってきました。いつもなら、「じゃ、また来るからね!」と声をかけるのですが、もう、この言葉はかけられません。私は洗い場にいたダイヤにそっと抱きつきました。ダイヤの体は、さっき拭いてもらったばかりなのに、すでに汗びっしょりでほてっていました。けれど、草と土の混じったいつものダイヤの匂いがしました。そして、この日が私にとってダイヤと過ごした最後の日になりました。
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